新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻化する状況のなか、大学への入構が制限され、入学直後からオンラインでの授業が続く1年生に向けて、板倉キャンパスでは、実験器具の使い方や実験の過程、考察方法などの理解を深める実験の授業動画が公開されました。動画を制作したのは、教職を目指す理科教育・教材開発研究室の4年生たち。後輩のために自分たちの経験を役立てたいとの一心で、自主的に企画を練り、学生たちはお互いの得意分野を生かして、協働しながら動画を作り上げていきました。
実験はオンラインでできない!? ならばどうすべきか?
毎日大学へ行き、教室で友達と一緒に授業を受ける。そんな当たり前だったはずの大学生活は、2020年度、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、失われつつありました。緊急事態宣言の発令に伴い、大学への入構が制限され、授業はオンラインで受けることに。入学したばかりの1年生にとっては、希望に満ちた大学生活を実感できないままの毎日が過ぎていきました。
「自分で考えられ得るあらゆる工夫をして、できることは何でもしようとの思いで、オンライン授業を行っていました」。食環境科学部食環境科学科の後藤顕一先生は、オンライン授業であっても、双方向型の対話を大切にした授業を行うことを心がけてきたと話しました。
しかし、講義やディスカッションなどはオンラインで実現することができても、化学実験を行う授業だけは同じようには進められません。「いくら教員が一方的に実験授業を見せても、実際に学生自身が手を動かして体験しなければ、理解が深まらず、効果が得にくいのではないか、と感じていました。実験の授業をどう進めるべきか、よいと思える案が浮かばずにいたのです」と振り返ります。
そこで後藤先生は、教職を目指す学生たちが集まる理科教育・教材開発研究室の4年生に、このような課題を解決できる方法がないかと相談を持ちかけました。すると、学生たちから実験の過程を撮影し、動画で見せたらよいのではないか、との提案がありました。「入学してから一度も大学に足を踏み入れていない後輩たちのために、自分の経験を生かして役に立ちたい」。学生たちは自発的に話し合いを進め、動画の企画を練り始めました。
自身の得意分野を発揮しながら協働して作り上げた
実験の技術が高い学生、わかりやすく解説することができる学生、動画の撮影や編集に長けている学生など、得意分野はそれぞれです。動画制作は、学生が自分の得意分野で力を発揮し、お互いの良さを認め、尊重し合いながら進めていきました。
7月下旬から動画制作の企画を練り始め、8月上旬には実験の様子を動画で撮影し、8月中旬には編集作業に入る、といった急ピッチでの制作スケジュールでした。「制作にあたって特に注意を払ったのは、実験道具の使用方法や実験時の注意点です。また、初心者でも理解しやすいような解説をしたり、映像では見えづらい箇所にはテロップを入れて補足したりするなどの工夫もしました」と学生たちは話します。そして、後藤先生からは「1年生が大学に来て実験を行う際に力を発揮できるようにするために、しっかりと実験の過程を再現し、内容に間違いがないか、見てわかりやすいか、伝わる内容になっているかなどと検証を重ね、自信を持って取り組んでほしい」とのアドバイスがありました。
動画の制作にあたった時期、4年生たちは自身の研究に加え、教員採用試験の時期と重なっていました。後藤先生は「本当はかなり忙しく余裕のない時期だったにもかかわらず、後輩のためにと献身的に奮闘している姿、お互いの得意なところを持ち寄り、協働しながら動画を作り上げていく姿を見て、彼らの温かみに胸が熱くなりました」と語ります。そして、まだ実験をしたことのない1年生とはいえ、単なる視聴者にならず、学習者として考察させることを意識した動画の構成に組み立てられ、教職課程を履修してきたなかで培われた「教職マインド」が存分に生かされていると評価しました。
活動の中で奮闘する東洋大学の心を大切に
このようにして完成し、公開された動画は「とてもわかりやすかった」と1年生には好評で、「準備や動画撮影など、とてつもない労力がかかることをしてくださり、先輩や先生に感謝しています」との声が寄せられました。さらに、秋学期に入り、大学での対面授業が行われ、4年生と一緒に実験に取り組んだ1年生からは、「実際にキャンパスで実験ができたことで、理解が深まりました。先輩方がとても丁寧に教えてくださってよかったです」などと、大学へ通える喜び、実験ができた喜びが伝えられました。
学生たちが自主的に企画制作した動画
誰も経験をしたことのない状況下で、後輩たちの学びを止めないために奮闘した学生たちに対し、後藤先生は「彼らが行ったことは、学生時代の全体から見れば、わずかな出来事かもしれませんが、かけがえのない経験になったと思います。急激に変化する時代の中で、その時々の状況で最善を尽くす、活動の中で奮闘する、現実社会における活動の中にどこまでも前進してやまない東洋大学の心、誇りと品格を持ち続けてもらいたいと思っています」と願います。
また、先輩たちの思いを受け継ぎ、大学での学びを進めていく1年生に対しては、「体験ができなかったハンディを乗り越えて、これからできる体験を一つ一つ大切にしてほしいものです。そして、何のために行うのか(目的)、何を行うのか(内容)、どのように行うのか(方法)といった視点を基に、大学生として、社会人として身に付けるべき基礎・基本を、粘り強く、かつ一つずつ確実に身に付けるべく、充実した大学生活を送ってほしい。さらには、身に付けた能力をさまざまな場面で発揮してもらいたい」とのメッセージを送りました。
- ※掲載内容は、取材当時のものです